センター現代文の選択肢へのアプローチ② 1998年 センター試験/評論/問2
選択肢のアプローチの重要性に関しては 前回 お話しました。
今回は、実際のセンター試験問題を用いて選択肢へのアプローチ方法を確認していきましょう。
では、まず次の設問と選択肢を読んでみてください。1998年のセンター試験現代文の問2の問題です。
まず設問の意味・意図をしっかり読み考えましょう。その上で、選択肢の内容をよく読んで、常識的にしっかりと理解していけば、選択肢は2つ~3つまでに絞られるはずです。
◆傍線部A「闇は『明るい空間』とはまったく別の方法で私たちにはたらきかける」とあるが、そのはたらきかけは私たちにどのような状況をもたらすか。その説明として最も適当なものを①~⑤のうちから一つ選べ。
①視覚的な距離によってへだてられていた私たちの身体と空間とが親密な関係になり、ある共通の雰囲気にともに参与させられる。
②物差で測定できる量的な距離で空間を視覚化する能力が奪われ、私たちの身体全体に浸透する共感覚的な体験も抑制させられる。
③距離を媒介として結ばれていた私たちの身体と空間との関係が変容し、もっぱら視覚的な効果によって私たちを包み込む深さを認識させられる。
④視覚ではなく身体感覚で距離がとらえられ、その結果として、空間と間接的な関係を結ぶ私たちの感覚が活性化させられる。
⑤視覚のもつ距離の感覚がいっそう鋭敏になり、私たちの身体と空間とが直接触れ合い、ひとつに溶け合うように感じさせられる。
さて、選択肢へのアプローチを学ぶ上で重要なことは、「① 傍線の意味、設問の意図をしっかり読み、設問に沿った選択肢を探す」ということです。 いやぁ実に当たり前ですが、当たり前のことをしっかりできるかどうかがカギになるのです。では、設問・傍線部をもう一度見て見ましょう。ここでは、何を述べているのでしょうか?
設問には「そのはたらきかけは私たちにどのような状況をもたらすか。」とありますが、この「そのはたらきかけ」とは傍線部を読めば「闇のはたらきかけ」であるということがわかります。すなわち、この設問では、「闇のはたらきかけによって、私たちはどうなるのか。」と尋ねているのです。私たちが暗闇の中にいるときの状況を考え想像した上で、選択肢を見ましょう。
選択肢を見る上で重要なことは、「② 各選択肢で共通されて用いられている語句に注目する」という点です。今回の5つの選択肢を眺めて、それぞれに共通されて用いられている語句は何でしょうか?
そうですね。それは「視覚」という単語です。そこで、この問題では、「闇のはたらきかけ」と「私たちの視覚」との関係性を解き明かせばいいということに気付きます。
ただし、ここでポイントになるのは、もちろん各選択肢で「視覚」という語句が共通して用いられていますが、しかし、それは文脈において同じと言えるのでしょうか?
もう一度各選択肢をしっかり読んで、どういう文脈の中で「視覚」という語句を使っているのかを考えて下さい。
①視覚的な距離によってへだてられていた私たちの身体と空間とが親密な関係になり、ある共通の雰囲気にともに参与させられる。
→ 視覚に隔てられ 身体と空間とが親密な関係になる。
②物差で測定できる量的な距離で空間を視覚化する能力が奪われ、私たちの身体全体に浸透する共感覚的な体験も抑制させられる。
→ 視覚化する能力が奪われ、体験も抑制させられる
③距離を媒介として結ばれていた私たちの身体と空間との関係が変容し、もっぱら視覚的な効果によって私たちを包み込む深さを認識させられる。
→ 視覚的な効果によって深さを認識させられる
④視覚ではなく身体感覚で距離がとらえられ、その結果として、空間と間接的な関係を結ぶ私たちの感覚が活性化させられる。
→ 視覚ではなく距離がとらえられ、空間と関係を結ぶ感覚が活性化させられる。
⑤視覚のもつ距離の感覚がいっそう鋭敏になり、私たちの身体と空間とが直接触れ合い、ひとつに溶け合うように感じさせられる。
→ 視覚の感覚が鋭敏になり、の身体と空間がひとつに溶け合う。
わかりますね? ① ② ④ の選択肢は、「視覚」感覚が「隔てられ」たり「奪われ」たと述べられているのに対し、③ ⑤ の選択肢では、「視覚」によって「包み」こんだり「溶け」あったりすると述べられています。
先ほど述べたように、この問題では、「闇のはたらきかけ」と「私たちの視覚」との関係性を考えるのです。「暗闇」の中で、私たちの「視覚」はどうなりますか? ここは常識です。「暗闇」の中では、私たちの「視覚」は「隔てられ」たり「奪われ」たりすのですから、 ① ② ④ の選択肢が正解ではないかと考えられます。
では次に、もう一度 ① ② ④ の選択肢を注意深く眺めてみましょう。3つの中で1つだけニュアンスが異なる選択肢はありませんか?
実は、① と ④ は、「暗闇」の中で、私たちの「視覚」が「隔てられ」たり「奪われ」たりすることによって、「ある雰囲気に参与させられ」たり、「私たちの感覚が活性化させられ」たりします。すなわち、「暗闇」になることに対して、肯定的な結果を述べています。ところが、② の選択肢では、「共感覚的な体験も抑制させられる」という否定的な結果を述べているのです。
このように、筆者の主張が、肯定的か否定的かといいうニュアンスを感じ取る能力は大変重要です。
確率的には、このような、共通する選択肢が複数あり、それに反する選択肢が1つある場合は、共通する選択肢が正解になる場合が多いのですが、それは、参考程度にとどめておきましょう。
よって、この問題では、まず③ ⑤ は設問意図と反するので成果の可能性は低く、正解は① ② ④ のいずれかになりそうです。あとは、本文を読み、「暗闇」が私たちにもたらす結果を肯定的に述べていれば、① か ④ ですし、「暗闇」が私たちにもたらす結果を否定的に述べていれば、② となります。
このように、選択肢にある程度の注意を払い、しっかり考えることが、正解率を高めることにつながるというのはおわかりいただけたでしょうか。 もちろん、これはあくまでも、選択肢へのアプローチの練習であって、本文を読まずに問題が解ける! などと言っているわけではありませんので、誤解なさらないでください。